動物病院で血液検査を受けた際に先生から
胆嚢(たんのう)に負担がかかっていますね
といわれたことはありませんか?
胆嚢って何?元気だけどなあ……?
胆嚢に負担がかかるって、食事が悪かったのかしら…?
こんな疑問が出てくると思います。
ALPとGGTが上昇するのはドッグフードだけではありません。この記事では血液検査の胆道系に関する数値であるALP(アルカリホスファターゼ)とGGT(γ-グルタミルトランスフェラーゼ:γ-GPT)について解説します。
ALP、GGTとは
ALPとGGTは細胞表面の細胞膜に結合して存在する酵素(膜結合型酵素)です。これらは様々な刺激に対して新しく産生・放出が増加する(誘導される)「誘導酵素」として犬では知られています。
血液検査で検出されるのは、血液中に放出されたこの酵素の量を測定しています。
肝胆道系とは
では、このALPとGGTと関連の深い肝胆道系とは何でしょうか?
胆道とは肝臓で作られた胆汁の排泄経路のことです。胆嚢、肝臓内の胆管(肝内胆管)、肝臓外の胆管(肝管、胆嚢管、総胆管)からなります。
肝臓で作られた胆汁は脂肪の消化吸収に関わる脂肪酸と肝臓で代謝された赤血球色素の老廃物である胆汁色素を多く含んでいます。
この胆汁は胆管を通って移動しますが、そのまま腸に流れるわけではなく、一旦胆嚢に貯められます。
胆嚢は胆汁を貯めておき、必要な時に胆汁を排出する臓器です。
食餌を食べたことがきっかけとなって、胆嚢が収縮し、まとまった量の胆汁が胆嚢から排出されます。
そして、胆管を流れ、腸に出た胆汁は食餌の消化に関わります。
ALPとGGTは肝臓や胆管の細胞において多く産生されている酵素になります。
ALPについて
ALPは肝胆道系の肝臓と胆嚢以外に、骨、腸、腎臓、胎盤など全身の様々な臓器で作られます。ALPは細胞膜に発現していて、アルカリ条件下でリン酸化合物を分解する酵素です。
様々な場所で働いているALPですが、犬の血液検査で測定できるALPは以下の3つの型(アイソザイム)があります。
- 肝臓型ALP…胆汁うっ滞をひき起こすような肝胆道系疾患で上昇する
- コルチコステロイド誘発型ALP…ストレスや副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)による内因性の副腎皮質ホルモン、治療薬としての副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や抗てんかん薬が原因で上昇する
- 骨型ALP…幼若な子犬、骨疾患(骨折、骨腫瘍、骨の感染症)が原因で上昇する
一般的な血液検査では、3つのALPの合計を数値として表しています。
ALPのアイソザイムを検出する検査もあります(富士フイルムVETシステムズ)。
犬の場合、ALPは基準値上限の2倍以上を示した場合に明らかな高値と判断します。
ALPの3つの型から、ALPが上昇する原因は大きく分けて①肝胆道系疾患②コルチコステロイド③骨疾患が挙げられます。
- ALPは①肝胆道系疾患②コルチコステロイド③骨疾患で上昇する
GGTについて
GGTはアミノ酸の細胞膜での移動に関与している酵素で、肝臓、胆嚢以外にも発現しています。その働きは、生体内で抗酸化作用により解毒に関わるグルタチオンの生成に関与している重要な酵素です。
犬でのGGTの血液検査での上昇は、そのほとんどが肝臓における産生増加(酵素誘導)に由来します。
肝内胆管の胆汁うっ滞だけでなく、肝外胆管の圧迫や閉塞による胆汁うっ滞でも上昇します。
- GGTは主に肝胆道系疾患で上昇する
GGTの特徴・ALPとの違い
血液検査において、GGTはALPの数値の動きとよく似ていますが、違う点が3つあります。これを利用して数値の変化から犬の変化を読み取り病気を推測することができます。ここでは、ALPと比較したGGTの特徴を解説します。
- GGTは骨からの産生がない
⇒骨型ALPの鑑別に利用できる - 犬において副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や抗てんかん薬の影響が少ない
⇒病気と薬の影響の鑑別に利用できる - 犬では、GGTの方がALPよりも検査の感度が低い(病気だったとしても上昇しづらい)が、特異性は高い(偽陽性が少ない)
GGTは骨からの産生がない
血液検査においてALPとGGTは両方とも肝胆道系の酵素として数値が変化します。しかし、ALPは骨からの骨型ALPの産生もあり数値が上昇しますが、GGTはそれがありません。
例えば、犬の原発性骨腫瘍である骨肉腫ではALPの上昇がみられることがあります。これは骨型ALPが増加していることによります。GGTを同時に評価することで、GGTの上昇がないのであれば、そのALPの上昇は骨型ALPの上昇によるものの可能性を考えます。
GGTは犬においてステロイドや抗てんかん薬の影響が少ない
抗炎症薬である副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)や、フェノバルビタールと呼ばれる抗てんかん薬の使用により、ALPは増加します。GGTもそれらの薬剤の使用によって数値は上昇しますが、ALPほど顕著な上昇はありません。
このことを利用して、胆道系の負担によってALPが上昇しているのか、あるいは治療やで使用している薬剤によってALPが上昇しているのかをある程度見分けることができます。それにより、治療方針を決める手助けになります。
犬ではGGTの方がALPよりも検査の感度が低いが、特異性は高い
「GGTの方がALPよりも検査の感度が低い」というのは、GGTは肝胆道系の負担がかかっていたとしても数値が上昇しにくく、軽度の変化を捉えるのには向かないというデメリットになります。
言い換えると、ALPの方が病気を見つける能力が高く、軽度の肝胆道系の負担を捉えることができます。
しかし、「特異性は高い」というメリットがあります。
GGTはストレスなどの他の原因の影響を受けにくく病気を見分ける能力に優れ、数値が上昇していれば肝胆道系の負担がかかっているというより強い根拠になります。
言い換えると、ALPはストレスなどの他の原因で数値が上昇するため慎重な評価が必要になります。
以上の3つから総じていえることですが、GGTはALPと比べると数値が上昇しにくいのです。
- GGTはALPと比べると数値が上昇しにくいが、肝胆道系疾患との関連性が強い
- ALPと同時に評価することで、ALPの上昇の原因を推測することができる
ALPおよびGGTが上昇する原因
ここからはALPとGGTが上昇する原因について解説します。
ALPとGGTが高くなる原因は様々ですが、ここではわかりやすいように3つに分類します。
- 外的な原因
- 体の中の病的な原因
- 肝臓・胆道系の病的な原因
外的な原因
- 食餌性:フードが傷んでいる、ジャーキーなどのおやつ、脂質や糖質の多いもの
- 薬剤性:ステロイド(プレドニゾロンなど)、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、抗真菌薬(イトラコナゾール、ケトコナゾールなど)、抗てんかん薬(フェノバルビタール)など
- 外傷
外的な原因としては食餌、薬剤が代表的です。
特に、健康で元気な若い成犬で健康診断で引っかかるのは食餌性が一般的です。おやつなどの食べ過ぎや体質により糖質や脂質の摂取が過剰になると空胞性肝障害をおこし、ALPやALTなどの他の肝臓の数値も上昇します。食餌の見直しやおやつの制限を行い、場合によっては薬剤や食事療法を含めた治療が必要になることもあります。
プレドニゾロンはALPを上昇させるアレルギー性皮膚炎、犬アトピー性皮膚炎などの皮膚病や免疫介在性溶血性貧血などの自己免疫疾患に対してよく使用されます。投薬治療中は数値が上昇しますが、病気が安定して、お薬の量を減らしたり無くすことで数値は下がり元に戻ります。
抗てんかん薬のフェノバルビタールは古くからあり実績のあるお薬です。日本では最近、ゾニサミドという別の抗てんかん薬が動物用医薬品として承認されたためあまり犬に使用することは減ってきています。
胆道系以外の病的な原因
- 炎症性:膵炎、敗血症
- 内分泌性:副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、糖尿病
- 右心系のうっ血性心不全(肺高血圧症、フィラリア症)
- 横隔膜ヘルニア
- 低酸素症
膵臓は肝臓、胆嚢と同様に消化酵素を分泌する臓器でとても密接な関係があります。腸に胆汁を排泄する総胆管と、膵液を排泄する膵管は隣接しており、お互いかなり近いところで腸に出口をつくっています。そのため、膵臓で炎症を起こし膵炎になると、肝外胆管閉塞という合併症を起こすことがあります。それによって、重度の胆汁うっ滞を引き起こすことで肝臓にもダメージが及び、黄疸が見られることがあります。そのため、血液検査でもALPやGGTの顕著な増加だけではなく、ALT、AST、T.Bil(総ビリルビン)の上昇が見られます。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)になると内因性のステロイド(コルチゾール)の過剰な分泌によりコルチコステロイド誘発型ALPが顕著に上昇します。ただし、長期にわたるコルチゾールの影響により空胞性肝障害を起こし、肝臓型ALPやGGTも上昇します。肝臓へのダメージによりALTやASTの上昇も見られます。
右心系のうっ血性心不全(右心不全)は病気が重くなると、静脈でつながっている肝臓に血液がうっ滞するようになり負担がかかります(うっ血肝)。それによって肝胆道系の酵素の上昇がみられます。
原因は肝臓以外の病気によるものであるので、原因療法としてその病気が起こっているところに対する精密検査や治療が必要です。
肝臓・胆道系の病的な原因
- 肝胆道系疾患(胆泥症、胆石症、胆管肝炎、胆嚢炎、胆嚢粘液嚢腫)
- 慢性肝炎(コッカースパニエルなど)
- 銅蓄積性肝炎(ベトリントン・テリア、ドーベルマン・ピンシャー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ダルメシアン、ラブラドール・レトリバーなど)
- 原発性門脈低形成
- 門脈体循環シャント
- 結節性過形成
- 空胞性肝障害
- 肝臓腫瘍(肝細胞癌、肉腫、リンパ腫、転移性腫瘍)
- 胆管腫瘍
- 肝膿瘍
- 肝硬変
肝臓疾患は肝臓内の胆管に負担がかかる原因になるため、ALPとGGTの上昇に密接に関わります。肝臓にダメージが及ぶためALTやASTといった肝臓の逸脱酵素が上昇します。
原因は肝臓にあるため、それぞれの肝臓病を見分けるための精密検査や治療が必要です。
胆泥症は見た目が健康な犬でもよく認められる疾患です。慢性的な肝臓の障害に関わることもあります。また、進行すると胆嚢粘液嚢腫になることもあり、手術が必要となることもあります。
その他
- アーティファクト(測定における偽の上昇):溶血、高脂血症
検査の測定に影響が出る異常で、誤って数値が高くなることをアーティファクトといいます。
採血した際に赤血球が壊れると溶血という状態になります。溶血によりALPとGGTは誤って高い数値になることがあります。
高脂血症とは、血液中の中性脂肪やコレステロールが高い状態を示します。病的な高脂血症もあれば、食後に一過性に高脂血症になる生理的なものもあります。いずれにせよ、食後の高脂血症の影響をないようにするために、血液検査を受ける際は12時間の空腹が望ましいです。
ALPのみ上昇する原因
骨型ALPの上昇による場合と、GGTとの検査感度の違いによってALPのみが上昇する場合があります。血液検査のみでこれらを完全にみわけることはできないので他の検査と組み合わせて総合的に判断します。
ここでは骨性ALPの上昇する原因を挙げます。
- 骨疾患(骨折、骨髄炎、骨肉腫)
- 成長期の若齢犬
- 妊娠中
まとめ
血液検査の項目であるALPとGGTについて解説しました。
肝胆道系疾患は犬でよくみられる疾患です。
軽度な数値の上昇だからと油断しないで、定期的な血液検査をしていきましょう。また、重度な上昇や長期の上昇が見られる場合は、レントゲンや超音波検査などの画像検査による精密検査を行うことも大切です。