NT-proBNPは最近検査が開始された項目ですが、血液検査で手軽に心臓への負担がわかる心臓バイオマーカーとして注目されており、多くの動物病院で検査されています。
一方で、こんな質問もよくいただきます
- 検査を受けて検査結果が届いたけどよく分からない…
- 異常値だったんだけど、何に気をつけたら良いの?
- 食事のせい?
さまざまな疑問を抱え不安になる飼い主様もおられると思います。
そんな不安を解消するべく、この記事では獣医もりぞー先生がNT-proBNPにまつわることを9つのポイントで徹底解説します。
NT- proBNPが高い原因は心臓病だけではありません。高血圧や腎臓病も関連します。
そして、自宅での心臓病を持つワンちゃんとの過ごし方の注意点までイラストを交えて分かりやすく解説します
心臓病の中でも僧帽弁閉鎖不全症はとても多くみられる病気です。知らず知らずのうちに病気が進行していることは少なくないです。
キチンとNT-proBNPについて理解し、健康診断に取り入れていきましょう。
- NT-proBNPとはなにか
- NT-proBNPが高くなるメカニズム
- NT-proBNPが高くなるの代表的な原因
- NT-proBNPが高かった時の精密検査とは
- NT-proBNPが高かった時の注意するべき症状
- NT-proBNPが高かった時に自宅で気を付けること
心臓バイオマーカーについて
心臓バイオマーカーは
- 心筋細胞の状態(負荷や傷害の有無、程度)を、心臓から放出されるホルモンや蛋白質をを測定して評価できます
- 心臓病の検出やその病態の程度を評価することが可能です
- バイオマーカーとは血液や尿などから、臓器の機能や障害の程度を客観的に評価できる検査項目のことを指します。バイオマーカーとしての例としては、古くから利用されているクレアチニンが腎機能を評価するものとして挙げられます。
犬の心臓のバイオマーカーとして利用されているものは、NT-proBNP、ANP、高感度心筋トロポニンⅠ(hs-cTn I)の3つが挙げられます。
これまで犬の臨床現場では心臓病を評価するためには聴診などの身体検査、心臓の電気的な異常を調べる心電図検査、レントゲン検査や心エコー図検査(心臓超音波検査)での心臓の形や構造を評価することが中心に行われてきました。
中でも心エコー図検査は心臓の形態や内部の構造の異常の検出、拡張性や収縮性などの心臓の運動性の評価、さらに血流の異常をエコーの信号から非侵襲的に測定することができるため、心臓の病態を理解するためには最も重要な検査項目です。
一方で、心エコー図検査はどうしても診断や治療評価に獣医師の主観や技量が大きく関与するもので、循環器科を得意としない先生には大きなハードルとなります。
そのため、心臓病の精密検査の必要性や、病気の治療中の評価などその子に合わせた判断が難しくなる場面はとても多かったのです。
心臓バイオマーカーの登場は、心臓病の評価を客観的な数値で簡単に出来るようになり、循環器に関する診療の幅が広がったことがが大きな進歩となりました。
これにより、どの先生でも血液検査で手軽に心臓の負担を数値で調べることが出来るようになりました。
また、健康診断で早期に心臓病を見つけることができ、数値の高さに応じて直ぐに心臓の精密検査を受けた方が良いかまで分かります。
心臓病のリスクのある多くのどうぶつ達に優しい検査です。
NT-proBNPとは
NT-proBNP(エヌティープロビーエヌピー)の正式名称は脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメントといいます。
NT-proBNPは心臓バイオマーカーの一つで、血液検査で心臓病を検出するための検査項目です。
心臓には負担がかかると、それを調節するための働きが備わっています。
その一つがBNPと呼ばれる心臓から分泌されるホルモンです。
BNP(B型ナトリウム利尿ペプチド)はアミノ酸を組み合わせて作られるペプチドホルモンの一つです。
心臓の血液を送り出す場所である心室は心筋細胞から構成されています。
この心室の心筋細胞に伸展刺激がかかると、BNPの前駆物質(活性化する前の段階のもの)であるproBNPの産生が増加します。
つまり、「心室の心筋に負担がかかると、それに反応し、調節して負担を減らすためにBNPの量を増やそうと心筋が働く」ということです。
産生されたproBNPは、タンパク分解酵素により生理活性を持つBNPと生理活性のないNT-proBNPに分断されて、血液中に放出されます。
(言い換えると、NT-proBNPはBNPを作る過程で出来た切れ端なのです)
血液中に放出されたBNPは、ナトリウム利尿作用、血管拡張作用、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系や交感神経系を抑制などの生理活性作用を持ち、心臓の負担を減らす役割があります。
しかし、BNPは作用すると同時にすぐに分解されてしまいます。
一方で、生理活性のないNT-proBNPは、BNPに比べて半減期が長く、また血液中での安定性もあります。
そのため、このNT-proBNPを測定することで、安定して間接的に心筋への負荷を評価することができるのです。
つまり、「心室の筋肉への負担がかかると、NT-proBNPは高くなります」
- NT-proBNPは心臓から分泌されるホルモンであるBNPがつくられる過程で出来るもの
NT-proBNPの基準値
検査会社 | 参考基準値 |
富士フィルムVETシステムズ | – |
IDEXX | <900 g/dl |
NT-proBNPはIDEXXでのみ検査されているよ。
Cardiopet proBNPという検査項目名で検査されています。
※ドーベルマンではNT-proBNPが735 pmol/L 以上の場合、無症状の拡張型心筋症のリスクの上昇が認められます
※僧帽弁閉鎖不全症がある体重20kg未満の犬ではNT-proBNPが1500 pmol/L 以上の場合、今後12ヶ月以内に心不全を発症するリスクが上昇しています。
NT-proBNPのメリットとデメリット
メリット
採血のみで検査出来る
心臓病を評価する際に必要な検査として、レントゲン検査や心エコー図検査があります。
これらの検査は看護師さんに持ってもらい、横になってジッとしている必要があります。
そのため、ワンちゃんの性格にも依りますが、画像検査は少なからずワンちゃんにはストレスがかかる検査になります。
その点、NT-proBNPは採血1回で短時間に検査を終えることができますので、ワンちゃんのストレスも少ない検査になります。
例えば、性格がとても臆病なワンちゃんが病院で聴診してもらった際に、心臓の軽度の雑音を指摘されたとします。もちろん、診断や治療の必要性を判断するためには心エコー図検査などの精密検査が必要です。
しかし、その子の性格も考慮して、ストレスのかかる心エコー図検査を積極的に考えた方がいいかを判断するためにまずは短時間で済むNT-proBNPの測定を行うことも方法の一つになります。
客観的な数値で心臓の状態がわかる
NT-proBNPは血液検査であるため、検査結果はNT-proBNPの血液中の濃度を数値で表します。
数値の高さによって、心臓の負担の程度が分かります。
そのため、飼い主様も分かりやすい指標になります。
幅広い利用ができる
血液検査で心臓の状態を評価できるため、多くの場面で利用が可能です。利用例を挙げていきます。
- 心臓病の早期発見のための健康診断に利用することができます。
特に僧帽弁閉鎖不全症のリスクの高いチワワなどの小型犬種やキャバリアなどにオススメです。 - 咳や呼吸困難などの時に呼吸器疾患との鑑別に利用できます。
咳が多い時や、呼吸が荒いときにNT-proBNPが低い場合は心臓病が原因の可能性がかなり低く、肺や気管などの呼吸器の病気の可能性が高いと判断されます。 - 心臓病の重症度や予後の目安になります。
数値が高いほど心臓に大きな負担がかかっており、重度の心臓病があると推察されます。精密検査や治療の必要性を判断することができます。
デメリット
心室に負担がかかっていることは分かっても、その原因の診断は出来ない
NT-proBNPは数値の高さによって心臓への負担の大きさを評価することはできますが、その心臓への負担をかけている原因を特定することは出来ません。
原因の特定にはレントゲンや心エコー図検査による心臓の評価や、血圧測定などの追加検査が必要です。
不整脈の検出は出来ない
不整脈を原因とする心臓病の場合には、NT-proBNPは数値が高くなることはありません。
不整脈や心拍数などの心臓の電気的な変化をみるためには心電図検査が必要です。
例えば、倒れるや意識を失う、失神するなどの心臓病を疑う症状が見られても、不整脈が原因であればNT-proBNPが高くならない可能性はあります。
したがって、NT-proBNPが高くならなくても心臓病を除外できるわけではないので注意が必要です。
犬の場合、外注検査になるため検査結果が出るのに時間がかかる
NT-proBNPの検査は外注検査になるため、外の検査機関に測定を依頼し検査結果が出るのに数日かかります。
そのため、病院で血液検査を受けて、その場ですぐに結果が分かる検査ではありません。
例えば、重度の呼吸困難を起こした場合には、救急としてすぐに診断して治療を始める必要があります。
しかし、検査結果が分かるのが数日後になってしまうNT-proBNPを測定しても、迅速な診断に繋がらないため、検査の意義が低くなってしまいます。
その際は心エコー図検査やレントゲン検査などを行うことで判断します。
エビデンスが少ない
NT-proBNPは犬では比較的新しい検査であるため、まだ少しエビデンスに乏しいという欠点があります。
また、心臓の負荷の程度や変化をリアルタイムで捉えるのは心エコー図検査に代わるものはありません。そのため、心臓病の治療経過のための検査は、心エコー図検査がゴールドスタンダードです。
したがって、NT-proBNPの数値の変化のみで判断することはできません。
今後のエビデンスの蓄積が期待されます。
- NT-proBNPは採血のみで短時間で検査を終えることができるため、犬へのストレスも少ない
- 数値で心臓の負担の大きさが分かるため、客観的で分かりやすい
- 健康診断、呼吸器疾患との鑑別、心臓病の重症度の判定など多くの場面で利用することができる
- NT-proBNPは心臓病の原因を特定することはできない
- 検査結果が出るのに数日かかるため、救急疾患での検査には不向き
NT-proBNPが高くなるメカニズム
NT-proBNPが高くなるのは以下のいずれかです。
- 心臓への負荷が増えて生成される量が増える
- 腎臓での代謝が悪くなり血液から排泄される量が減る
少なくとも食事の影響を受けて顕著に高くなることはありません。
心臓での負荷が増える
心室の心筋細胞に伸展刺激がかかることによってNT-proBNPの生成も増加します。
伸展刺激とは血液の循環により起こるものであり、この心室に伸展刺激が加わるメカニズムは2パターンあります。
心室に伸展刺激が加わるメカニズム
- 心室に容量負荷がかかる
- 心室に圧負荷がかかる
心室に容量負荷がかかる
容量負荷とは心臓に血液が入ってくる容量による負荷のことを言います。(心臓が収縮する前にかかる負荷であるため、容量負荷のことを「前負荷」とも言います。)
容量負荷がかかるということは、心臓に通常よりも多く容量の血液が入ってくることを言いいます。つまり、心臓にたくさんの血液が流れ込んでくるため、心臓がパンパンの状態になります。
心臓が血液でパンパンになるために、心室が伸び拡がることでNT-proBNPの生成が増加します。
代表的な病気は、僧帽弁閉鎖不全症、短絡性心疾患などが挙げられます。
心室に圧負荷がかかる
圧負荷とは心臓が収縮して血液を送り出すためにかける圧力による負荷のことを言います。(心臓が収縮した後にかかる負荷であるため、圧負荷のことを「後負荷」とも言います。)
圧負荷がかかるということは、血液を送り出しにくい病気になっていることによって、心臓が通常よりも大きな圧力で血液を送り出していることを言います。つまり、心臓が収縮しているときに大きな圧力が心臓の中にかかり、ギュウギュウの状態になっています。
このギュウギュウになった圧力で心室の筋肉が押しつぶされて伸び拡がるためNT-proBNPの生成が増加します。
代表的な病気は、動脈弁狭窄症、高血圧症、肺高血圧症などが挙げられます。
腎臓での排泄が減る
NT-proBNPは腎臓のみで代謝されます。そのため、腎機能が低下すると代謝されるNT-proBNPの量が減るため、血液中のNT-proBNPの量が増えます。
つまり「慢性腎臓病などの腎機能が低下する病気があるとNT-proBNPは高くなります」
- NT-proBNPの数値は心室の心筋の負担を反映している
- 心室の筋肉の負担が大きくなるとNT-proBNPの数値は高くなる
- 腎臓の機能の低下にも影響を受けて、NT-proBNPの数値は高くなる
NT-proBNPが上昇する原因
ここからはNT-proBNPが上昇する原因について解説します。
よく見られる一般的な原因は太字、救急疾患や重要な病気は赤色マーカーで示します。
NT-proBNPが高くなるのは食事や生活環境が原因で起こることはありません。病気が原因で高くなります。
中でも、NT-proBNPは心臓病が原因で数値が上昇することが最も多いです。
しかし、それ以外にもNT-proBNPが高くなるのに影響する病気があります。
ここでは、NT-proBNPが高くなる代表的な原因をピックアップして解説します。
- 心臓病:弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁粘液腫様変性)、三尖弁閉鎖不全症)、心筋症(拡張型心筋症、不整脈原性右室心筋症など)、短絡性心疾患(動脈管開存症、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症など)、動脈弁狭窄症など
- 高血圧症(体高血圧症、全身性高血圧症):原発性、二次性(腎臓病、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、褐色細胞腫、甲状腺腫瘍による甲状腺機能亢進症など)
- 肺高血圧症:原発性(肺動脈性)、二次性(左心性心疾患、肺疾患、低酸素症、肺血栓塞栓症、フィラリア症など)
- 腎臓病:腎前性(脱水、甲状腺機能低下症、アジソン病など)、腎性(慢性腎臓病など)、腎後性(尿道閉塞など)
僧帽弁閉鎖不全症
犬で最も多い心臓の病気は、シニア期になると罹りやすい僧帽弁閉鎖不全症です。
原因は僧帽弁粘液腫様変性といい、僧帽弁という心臓の弁が変性することによって形が変化し、弁が正常に閉まらなくなります。
それによって左心室の血液が左心房へと逆流するようになり、血液が心臓内にうっ滞するようになります。
心不全を発症すると、肺の中に水が溜まってしまう肺水腫と呼ばれる状態になり、息が荒い、咳がでるなどの症状が見られます。
その血液のうっ滞が原因で心室の筋肉に伸展刺激が大きくなるため、NT-proBNPの生成が増えます。
高血圧症
ヒトでもよく言ういわゆる「高血圧」であり、体の動脈の血圧が持続的に異常に上昇している状態です。
心臓と体の血液の循環を体循環といい、この体循環での高血圧症なので体高血圧症(全身性高血圧症)ということもあります。
犬の場合は何かの病気によって二次的に高血圧を合併することが多く、腎臓病、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、褐色細胞腫、甲状腺腫瘍などが代表的な病気として挙げられます。
高血圧によって末梢血管に負荷がかかり、出血や虚血が起こります。特に、脳、眼球、腎臓、心臓がダメージを受けやすい標的臓器となり、脳障害によるけいれん発作、網膜剝離による失明、腎障害による腎機能低下、心筋の肥大などの症状が起こります。
全身の血圧が高くなることで、心臓の左心室の中も受動的に圧が高くなります。
それが原因で心筋に伸展刺激が大きくなるため、NT-proBNPの生成が増えます。
肺高血圧症
心臓と肺の血液の循環を肺循環といいます。この肺循環での血圧が異常に高くなっている状態を肺高血圧症といいます。
肺高血圧症は何かの病気によって二次的に肺高血圧症を合併することが多く、左心性心疾患、肺疾患、低酸素症、肺血栓塞栓症、フィラリア症などが挙げられます。
肺の血液の循環が悪くなるため、呼吸困難や失神などの症状が見られます。また、腹水や胸水の貯留が見られることもあります。
肺循環の血圧が高くなることで、心臓の右心室の中も受動的に圧が高くなります。
それが原因で右心室の心筋に伸展刺激が大きくなるため、NT-proBNPの生成が増えて数値が高くなります。
腎臓病
腎臓での機能が低下した状態です。
大きく分けて3つの分類によって腎機能が低下し、①腎臓への血流が低下する腎前性、②腎臓自体のダメージによる機能している腎臓の組織の減少する腎性、③尿の排泄が滞る腎後性に分けられます。
代表的な病気は慢性腎臓病です。
重度の腎機能の低下によりNT-proBNPの代謝が低下するため、血液の濃度が高くなります。
NT-proBNPが高かったのときの追加検査
血液検査でNT-proBNPが高かったら、原因の診断のために追加検査をおすすめします。
レントゲン検査
X線で肺や気管などの呼吸器の問題、心臓や血管の異常を見つけます。
心臓病の場合は、心臓への負荷に伴い心臓の拡大がないかや肺水腫になっていないかを評価します。
心エコー図検査
超音波を用いてリアルタイムでの臓器の形を評価します。
心エコー図検査は心臓の形態や内部の構造の異常の検出、拡張性や収縮性などの心臓の運動性の評価、さらに血流の異常をエコーの信号から非侵襲的に測定することができるため、心臓の病態を理解するためには最も重要な検査項目です。
また、呼吸困難の際には胸水の貯留がないかを迅速に診断し、肺エコー検査で肺の細かな病変がないかを評価することが出来ます。
血圧測定
腕や足、あるいは尻尾に血圧測定用のカフと呼ばれるバンドを巻いて血圧を測定します。
犬の場合は、主に収縮期血圧(いわゆる上の血圧)で血圧の高さを評価します。
高血圧症がないかを診断します。
例えば、全身性の高血圧症が併発している場合、僧帽弁閉鎖不全症の病態を悪化させるため、高血圧症がないかを評価することは大切です。
また、個体ごとのベースの血圧を把握しておくことで、今後血圧のコントロールが必要なった際に有用です。
したがって、僧帽弁閉鎖不全症のワンちゃん全てにおいて血圧測定をおすすめします。
これはACVIMガイドラインにおいても強く推奨されています。
NT-proBNPが高かったときの治療
NT- proBNPが高かった時の治療と見出しに書きましたが、正確には高くしている病気の治療法になります。
診断に基づいた治療を行います。
NT-proBNPが高い場合、内科治療が主体ですが、原因によって外科治療が必要なケースもあります。
内科治療が主体の病気
僧帽弁閉鎖不全症
犬で最も多くみられる後天性の心臓病です。
ACVIM(アメリカ獣医内科学科)の2019年最新版のガイドラインに基づいた治療が推奨されています。
僧帽弁閉鎖不全症を進行具合によって5つのステージに分類しており、ステージB2以上に進行している場合は治療を推奨します。
内服薬による内科治療が主体です。特に強心薬であるピモベンダンの投与から治療を始めることが一般的です。
ステージが進行した場合や症状に応じて、ベナゼプリルなどのアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE-I)、スピロノラクトンやフロセミドなどの利尿薬での治療の追加や、ナトリウムを制限した食事療法も推奨されます。
高血圧症
重度の高血圧の場合、血圧を下げる内服薬と食事療法をおすすめします。
内服薬としてはベナゼプリルなどのアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE-I)や、アンジオテンシン受容体拮抗薬であるテルミサルタン、カルシウムチャネル拮抗薬であるアムロジピンなどが使用されます。
また、犬の場合は二次的に高血圧を引き起こすことが多いため、元になる病気の治療も重要です。腎臓病、副腎皮質機能亢進症、糖尿病、褐色細胞腫などの病気がそれに当たります。
例えば、副腎皮質機能亢進症であれば過剰に分泌されるコルチゾールと呼ばれるステロイドホルモンが原因で二次的に高血圧症になります。この場合は、ホルモンの分泌を抑制する治療が必要になります。
肺高血圧症
中程度以上の肺高血圧症や、肺高血圧症による症状がある場合は治療をおすすめします
治療は肺血管拡張薬であるシルデナフィルという内服薬による治療を行います
合わせて肺高血圧症を起こす疾患の治療も重要です。例えば、肺血栓塞栓症であれば血栓症に対する治療がこれに当たります。
また、慢性的に呼吸苦しいなどの症状が強い場合は自宅での酸素室も検討します。
手術が必要になる病気
手術が必要になる病気もあります。
腫瘍が原因の高血圧症
高血圧症の原因として副腎腫瘍や甲状腺腫瘍などの腫瘍によるものは手術による腫瘍の摘出が推奨されます。
これらの病気は手術の目的としては腫瘍に対する治療と、合併症である高血圧症の治療両方を担う形になります。
重度の僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症は重度の心臓の拡大があり今後肺水腫を起こす可能性が高い場合や、肺水腫になった場合には手術が適応になることがあります。
しかし、手術を安全に行える施設が限られるのが現実です。
ACVIMガイドラインにおいてもステージB2以上の場合に、合併症の発生率が低い施設における僧帽弁の再建術を選択肢をして示しております。
手術の対応が出来る病院があるか、それ以外にも年齢、併発疾患、手術費用、アクセスなどの様々な条件を考慮して、手術を受けるかをご家族や主治医の先生、循環器専門医と相談する必要があります。
- NT-proBNPが高い場合、その多くの病気は内科治療が主体だが、外科治療が必要なケースもある
お家で気を付けること
数値が高かい場合は、注意が必要です。ここからは、NT-proBNPが高くなることが多い心臓病を中心として、注意点を解説します。
お家では①症状が見られないかをよく観察し、②生活環境や食事内容にも気を配ることが大切です。
症状が見られないかはワンちゃんの容態が救急かどうかを判断する大きな材料になるので非常に重要です。
また、心臓に負担をかけないための生活環境や習慣を整えることは、心臓病をもつワンちゃんと一緒に生活するためにはとても大切なことになります。
呼吸困難が見られないかをよく観察
NT-proBNPが高くなる病気で最も注意が必要な症状は呼吸困難です。
呼吸困難を起こす代表的な疾患は心不全による肺水腫や肺高血圧症になります。これらの疾患はNT-proBNPが顕著に高くなります。
したがって、NT-proBNPが高かった場合には、自宅でワンちゃんの呼吸をよく観察することをおすすめします。
呼吸が速い、チアノーゼ(舌が紫色になる)が見られれば呼吸困難に陥っているため救急になります。直ぐに病院に連れていきましょう。
また、初期症状としてはぐっすり寝ているときの呼吸の回数が増えます。1分間あたり40回/分以上に増えている場合には、何かしらの原因によって呼吸が苦しくなっていることを意味しますので動物病院に受診するか相談しましょう。
お家での過ごし方
心臓になるべく負担をかけないことが大切です。生活環境や習慣を見直しましょう。
散歩
一つ目は散歩です。
大きな運動負荷は心臓病を持つワンちゃんにはよくありません。心不全を起こしたり、倒れてしまったりする原因になります。
散歩はなるべくワンちゃんに合ったゆっくりとしたスピードで疲れすぎないようにすることが大切です。また、疲れてしまって立ち止まる場合には、抱っこをしてあげたり、カートに乗せたりして、無理のないようにしてあげましょう。
温度
2つ目は温度変化です。
急な温度の変化は心臓に大きな負荷を与えるためやめましょう。
寒い場合には足先の血管が縮んでしまって、心臓に負担がかかります。
暑い場合には、心臓の予備能力が少ないために熱中症にかかるリスクが高いため注意が必要です。
室温はエアコンなどを利用して、季節を問わず大きく変化させないようにして過ごすのが良いでしょう。
食事
3つ目は食事です。
食事療法が必要な病気の場合は、適切な食事管理が必要です。
重度の心臓病や高血圧症の場合には、ナトリウム(塩分)を制限した療法食が推奨されます。
病気に応じた適切な食事療法の指示を受けましょう。食べてもよいおやつの内容も相談するのも良いでしょう。
食事療法中は家族の協力が必要になりますので、家族みんなで意識を統一しましょう。
また、慢性的に心臓病を患っている場合は、心臓病に伴って栄養の代謝悪くなることで痩せてしまうようになる悪液質という状態になります。なるべく痩せないように食事はしっかり食べられるように工夫し、体型を維持することが重要です。
トリミングやシャンプー
最後はトリミングやシャンプーです。
心臓病をもっているワンちゃんの飼い主様に多く質問をいただく一つが「トリミングはどうしたらいいのか」ということです。
答えは「十分注意が必要」です。
過度な興奮や緊張は心臓に大きな負担となります。
その子の性格にも依りますが、トリミングやシャンプーは少なからずワンちゃんの緊張や興奮をさせてしまいます。
さらに温度変化の負担もあるため、とても大きな負担となります。
こういったことから、重度の心臓病をもっているワンちゃんは心不全を起こすキッカケになる可能性が十分あります。
こういった事故のリスクを把握してリスクを減らすために、まずは、トリミングを受ける場合には獣医さんに前もってしっかりと心臓の状態を診察してもらい相談しましょう。
先生からの診断の上、軽度の心臓病であればトリミングを受けても大きな問題を起こす可能性は低いと考えられます。
もちろん、トリミングを行うトリマーさんに心臓病がある旨を必ずお伝えしましょう。
しかし、重度の心臓病の場合は、やはりリスクが少なからずありますので獣医さんからはトリミングはあまりオススメできないと言われると思います。その際はトリミングを受ける必要性とリスクを考慮して慎重に考えましょう。
例えば、全身のカットが大きな負担となるのであれば、代替案として手短に終えるために足回りや目元など気になる部分のみをカットしてもらうなどで対応できるか相談すると良いかもしれません。
日頃から小まめにお手入れをすることも大切です。
また、心臓病をもっているワンちゃんがトリミングをどうしても行う必要がある場合には、呼吸が苦しくなった際にすぐに判断できる信頼のできるスタッフがおり、対処することができる施設で受けることが望ましいでしょう。
そうなると、現実的にはトリミングサロンを併設している動物病院にお願いすることが解決法の一つとなると思います。何かあった際には施術中であっても中断し、すぐに獣医さんに診てもらえるためです。
当日は処方されているお薬の服用は先生の指示に従い、呼吸の状態はもちろん、食欲などその他の体調にも気を付けて、少しでも問題がある際には無理をせずにトリミングはキャンセルした方が良いでしょう。
- お家では呼吸困難が見られないかをよく観察し、散歩や温度管理、食事に気を付け、特にトリミングを受ける際は十分注意が必要
まとめ
血液検査の項目であるNT-proBNPについて解説しました。
それではおさらいです。
- 心臓バイオマーカーは心臓病を評価するための血液検査の項目
- NT-proBNPは採血のみで短時間で検査を終えることができるため、犬へのストレスも少なくい
- 健康診断、呼吸器疾患との鑑別、心臓病の重症度の判定など多くの場面で利用することができる
- NT-proBNPが高くなる原因は①心臓病⓶高血圧症③肺高血圧症④腎臓病の4つであり、食事や生活環境の影響はほとんどない
- NT-proBNPが高いときは血液検査以外に、レントゲン検査、心エコー図検査、血圧測定などの追加検査で原因を特定する
- NT-proBNPが高い場合、その多くの病気は内科治療が主体だが、外科治療が必要なケースもある
- お家では呼吸困難が見られないかをよく観察し、散歩や温度管理、食事に気を付け、特にトリミングを受ける際は十分注意が必要
血液検査での異常とその原因は様々です。そして、原因は一つではなく、重なって存在することも少なくありません。
また、病気によって同じ検査結果でも解釈が異なり、その子その子によって治療の方向性も異なります。
特に難しい病気の場合、獣医さんの説明をよく聞いて、ご家族のワンちゃんに合った治療の方法を相談して決めていくのがよいでしょう。
もし、少しでも分からないことがありましたら、かかりつけの獣医さんに気軽に質問しましょう。
最後に今回の記事が少しでも飼い主様の疑問に解決し、どうぶつ達の健康に繋がれば幸いです。