骨軟骨異形成症は、骨や軟骨の発達や発育に問題おこる遺伝性の病気です。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症は、骨や軟骨の異常によって、四肢の関節や尻尾に骨関節症を引き起こします。
耳が垂れているのは見た目とてもかわいいですが、これも軟骨の異常が出ているサインになります。
この記事では、獣医もりぞー先生が猫の骨軟骨異形成症について分かりやすくイラスト付きで解説します。
骨軟骨異形成症の病気の解説から遺伝の仕方、診断するための検査や治療法までを広く解説しますので最後までご覧ください。
- スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症はどんな病気か
- 骨軟骨異形成症の診断と検査について
- 骨軟骨異形成症の治療
- 骨軟骨異形成症のネコちゃんで気を付けること
骨軟骨異形成症とは
骨軟骨異形成症とは、骨や軟骨、体の組織を繋ぐ結合組織に異常があり、発育や発達に障害が出る遺伝性疾患です。
骨や軟骨、結合組織は生体の形を保つ役割があります。
どうぶつの生命を維持するために直接働いている組織ではありませんが、生体が活動をするために必要な組織です。
つまり、この骨軟骨異形成症は簡単に言い換えると「骨格に異常がおこることよって、体の活動に支障をきたす病気」です。
骨軟骨異形成症には、障害をきたす部位によって複数の病気のタイプがあります。
スコティッシュフォールドの「耳折れ」
スコティッシュフォールドに代表される軟骨の形成異常、いわゆる「耳折れ」です。
軟骨が上手く作られないことによって、耳の軟骨にも影響し、耳が折れ曲がった形になります。
軟骨の異常は耳だけではなく、四肢の関節や尻尾にも現れて変形性関節症を引き起こします。
マンチカンの「短足」
マンチカンに代表される四肢の発達障害、いわゆる「短足」です。
ヒトの病気である、体幹に比べて腕や脚が短くなる四肢短縮型低身長症と似たタイプになります。
足が短いことによって関節の負担がかかり、変形性関節症のリスクがあります。
ペルシャの「鼻ぺちゃ」
ペルシャなどにみられる鼻がとても短くつぶれている猫は、鼻の軟骨の形成不全によって「鼻ぺちゃ」になります。
鼻ぺちゃによって、鼻呼吸の問題、襞になっている皮膚の炎症などが起こります。
- 骨軟骨異形成症は骨や軟骨、体の組織を繋ぐ結合組織に異常があり、発育や発達に障害が出る遺伝性疾患
- 骨格に異常がおこることよって、体の活動に支障をきたす病気
- 障害をきたす部位によって複数の病気のタイプがあり、「耳折れ」「短足」「鼻ぺちゃ」がある
以下からスコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症について解説していきます。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症の原因遺伝子と遺伝
原因遺伝子とは、遺伝病の発症に関連する遺伝子のことを指します。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症の発症には、Fd遺伝子の異常が原因遺伝子となることが分かっています。
このFd遺伝子の異常は不完全優性遺伝(不完全顕性遺伝)で遺伝します。
この遺伝子の異常をホモで保有すると、病気の発症が重度になります。
そのため、ペットショップからくるスコティッシュフォールドは大半がヘテロで遺伝子を保有しています。
遺伝子をヘテロで保有しているため、耳折れになっています。
関節の異常は重度にはなりにくいですが、少なからずあります。
しかし、病気の発症パターンや重症度は、この遺伝子だけでは説明できないため、複数の要因が病気に関連していると考えられています。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症の発症年齢
骨軟骨異形成症の病気の進行は、骨が成長する成長期から進行します。
ある数例の報告では5ヶ月齢~6歳齢で症状が見られたとあります。
そのため、子猫での発症が見られる場合もあるということになります。
ただし、実際に手足や尻尾の症状を示す年齢は様々です。
発症年齢は遺伝的な要因のほか、生活している環境の要因や性格などにも影響をうけます。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症でみられる症状
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症は、病気があらわれた関節で症状が見られます。
発生部位としては後肢の足根関節から指(後ろ足の足首から先)が最も多いです。
原因遺伝子をホモで保有している場合には前肢の手根関節から指(手首から指先)にも見られることがあります。
手足で異常をきたした場合には、手足の関節のゆがみや変形(変形性関節症)がみられたり、コブ(骨瘤)が形成され関節が腫大したりすることで、関節の可動域の制限(動きの制限)が見られます。
それにって、痛みや不自然な歩き方、走ることやジャンプなどの運動を嫌う様子などの症状として現れます。
原因遺伝子をホモで保有していると尻尾にも病変が合併します。
尻尾に異常をきたす場合には、尻尾は短くなり、骨瘤が作られ、尻尾はしなやかな動きが出来なくなります。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症は手首足首と尻尾に変形が出ますが、肩・肘・股関節・膝などのその他の関節には病変は作られません。
骨軟骨異形成症の症状をまとめると以下の様になります。
- 手首、足首や関節にコブ(骨瘤)が出来て腫れる
- 歩き方がぎこちない
- 足を引きずる、挙げる
- 走らない
- キャットタワーに登らない
- 爪切りを嫌がる
- 「スコ座り」(後ろ足を前に投げ出して、ヒトの様に座る)をする
- 尻尾が滑らかに動かない
スコ座りは可愛いですが、病気の症状の可能性があります。
検査と診断
骨軟骨異形成症の診断は、耳折れであることとと、レントゲン検査で関節の異常があることの2つから診断します。
また、原因遺伝子を保有しているかを調べる遺伝子検査で病気のリスクを調べることができます。
レントゲン検査
レントゲン検査で関節の異常を見つけます
典型的には手首足首の関節や尻尾に、骨によるコブ(骨瘤)が見られます。
他にも、骨棘とよばれるトゲトゲした病変や、骨増生という骨が盛り上がったようなる病変が関節でみられます。
これは、骨軟骨異形成症によって変形性関節症が進行した結果になります。
関節の病変は進行性で、徐々に大きくなっていきます。
また、関節のゆがみや変形のみがみられることもあります。
レントゲン検査はほとんどの動物病院で行える検査です。
骨や関節に異常があるか確認する場合には必ず行われる検査ですね。
遺伝子検査
ネコからサンプルを採取して原因遺伝子を検出する検査です。
遺伝子検査を受ける目的は以下の様になります。
- お家のネコちゃんが将来的に骨軟骨異形成症を発症するリスクがあるか
- 遺伝病の拡散抑制の観点から、子猫を産ませてよいか
最近では、猫の遺伝子検査が徐々に広がってきています。
特に、自宅で検査を受けられる、口の粘膜を採取する方法は普及してきています。
遺伝子検査ついては以下の記事でも詳しく解説しています。遺伝子検査を受けることで、どういったことが分かるのか?といった観点から解説しています。
是非、合わせてご覧ください。
遺伝子検査の方法
遺伝子検査の方法は大きく分けて2種類あります。
検査機関に口の粘膜を採取したサンプルを郵送する方法と動物病院で血液検査で検査する方法です。
骨軟骨異形成症の治療
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症に対する治療は対症療法が主体です。
なぜなら、遺伝子の異常による骨や軟骨の形成の異常を止めるための有効な治療法が確立されていないためです。
骨軟骨異形成症は足の痛みを抑える治療を行って付き合っていく病気になります。
以下に簡潔にスコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症の治療について解説します。
消炎鎮痛剤
消炎鎮痛剤による抗炎症作用によって、関節内の炎症産物やサイトカインの発生を抑え、痛みの緩和や関節炎の進行を抑制します。
主に内服薬による治療です。
ただし、ネコは消炎鎮痛剤による腎臓への負担がかかりやすいというデメリットがあります。
そのため、骨軟骨異形成症を発症した若齢のネコが、消炎鎮痛剤を一生涯使用することはあまり現実的な治療法ではないと考えられます。
サプリメント
抗炎症作用のある脂肪酸を豊富に含んだもの、関節の軟骨を補助するものなど様々なサプリメントがあります。
薬物ではないため長期的に使用することができ、関節症の進行を抑えることを期待して処方されます。
あくまでサプリメントであるため、効果は一定ではなく、獣医学的な根拠(エビデンス)も乏しいですが、痛みを緩和するという報告もあります。
放射線療法
低用量の放射線療法によって、関節の血管新生の抑制と、炎症産物やサイトカインの発生を抑えます。
それにって、長期的な鎮痛効果を得て、病気の進行を抑えます。
最も効果があると考えられている治療法です。
標的となる関節のみに治療が行えるため、消炎鎮痛剤による治療と比べて全身への影響が少ない治療法であることが大きなメリットになります。
しかし、全身麻酔が必要であることと、関節に使用される放射線がメガボルテージ(高電圧)と呼ばれるもので治療を行える施設が限られること、放射線療法が高額な治療法であることがデメリットとなります。
外科手術
手術によって、骨棘を取り除くことで関節炎による痛みを緩和する目的で行われます。
しかし、全身麻酔が必要であることと、手術による侵襲で痛みを伴うため負担もあります。
また、手術後に関節内の変形の進行や骨棘の増生スピードが速くなるリスクもあります。
様々な治療法がありますが、どの治療法にも一長一短があります。
- 猫の骨軟骨異形成症を治すための治療法はなく、対症療法が主体の治療になる
- 消炎鎮痛剤は炎症を抑えて痛みを抑えて関節炎の進行を抑えるが、長期的な使用は腎臓への負担が懸念される
- サプリメントは長期的な使用は可能であるが、効果は一定ではなく根拠は乏しい
- 放射線療法は病変のある局所にのみ治療を施すことができ、最も治療効果が高いと考えられているが、全身麻酔が必要で治療費が高価
- 外科療法は関節の痛みの原因となっている骨棘を取り除くことができるが、全身麻酔が必要であることと、治療後に病気の進行が速くなるリスクがある
進行を予防するため、気を付けること
治療を受ける以外にも、骨軟骨異形成症のネコちゃんにお家で出来ることがあります。
関節の負担を減らすために、食事による体重管理と足に負担のかからない環境を整えることが重要です。
体重管理
関節の痛みがあると運動量が減り、さらに筋肉量が減ることで体は肥満傾向になります。
体が重いことで関節に大きな負担がかかり、変形性関節症が進行します。
この関節の痛みと肥満によって悪循環に陥ってしまいます。
肥満の場合には、食事管理による体重管理を行い適切な体重にしましょう。
環境を整える
手足に負担のかかりにくいように、お家のネコちゃんが生活している環境を整えましょう。
フローリングの様な歩くと滑る床は足腰に負担がかかります。
敷物やマットを敷いて滑りにくく歩きやすいように工夫しましょう。
また、関節の痛みをかかえていると、高い所にジャンプすることが苦手になります。
ネコは高い所に登れなくなるとストレスを感じるようになります。
また、高い所から飛び降りると関節に負担がかかるため、関節に問題がある子にキャットタワーを置くことはあまり良くないかもしれません。
無理なく見渡せるくらいの高い所を用意して、負担なく登れるように細かな階段やステップをつけてあげるのが良いでしょう。
まとめ
スコティッシュフォールドの遺伝性骨軟骨異形成症について解説しました。
それではおさらいです。
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症
- 骨軟骨異形成症は骨や軟骨、体の組織を繋ぐ結合組織に異常があり、発育や発達に障害が出る遺伝性疾患
- 軟骨が上手く作られないことによって、耳が折れ曲がった形になり、手首足首の関節や尻尾にも病変が現れて変形性関節症を引き起こす
原因遺伝子と遺伝
- スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症はFd遺伝子が原因となり、不完全優性遺伝(不完全顕性遺伝)で遺伝する
- 原因遺伝子をホモで保有していると病気が重度になる
- ペットショップからのスコティッシュフォールドの大半はヘテロで遺伝子を保有しているため耳折れになっている
病気の発症年齢
- 軟骨異形成症は発育段階から病気が進行し、症状が現れるのは若齢でも見られる
症状
- 手首足首から指先までと、尻尾に病変があらわれる
- 肩・肘・股関節・膝などの関節には病変は作られない
- 手首足首が腫れたり、様々な歩行の異常がみられる
検査と診断
- 耳折れとレントゲン検査での異常から診断される
- レントゲン検査で骨瘤や骨棘の形成、骨増生、関節のゆがみや変形が見られる
- 遺伝子検査では原因遺伝子を保有しているかを検査することができる
治療
- 猫の骨軟骨異形成症を治すための治療法はなく、対症療法が主体の治療になる
- 消炎鎮痛剤は炎症を抑えて痛みを抑えて関節炎の進行を抑えるが、長期的な使用は腎臓への負担が懸念される
- サプリメントは長期的な使用は可能であるが、効果は一定ではなく根拠は乏しい
- 放射線療法は病変のある局所にのみ治療を施すことができ、最も治療効果が高いと考えられているが、全身麻酔が必要で治療費が高価
- 外科療法は関節の痛みの原因となっている骨棘を取り除くことができるが、全身麻酔が必要であることと、治療後に病気の進行が速くなるリスクがある
進行を予防するため、気を付けること
- 関節の負担を減らすために、食事による体重管理と足に負担のかからない環境を整えることが重要
スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症は原因を治療することができない遺伝性の病気です。
この記事を読んでいただき、ネコの遺伝病について理解が進んでいただけたら幸いです。
最後に、もしこの記事が気に入っていただけたら、多くの方に読んでいただけるように知らせていただけたら嬉しく思います。