酸素室とは、通常の空気中の酸素濃度である21%よりも高濃度の酸素濃度の酸素を充満させた部屋です。
酸素室に入ることによって高濃度の酸素を吸入することができるため、呼吸困難の患者さんの管理を行う酸素療法を行うことができます。
酸素療法には様々な方法がありますが、特にお家で酸素室を設置して行う酸素療法を在宅酸素療法といいます。
犬と猫におけるペット用酸素室は広く普及しており、呼吸の苦しいどうぶつ達と飼い主様にとって在宅酸素療法は欠かせない治療法の一つになります。
この記事では、その在宅酸素療法の効果とメリットについて詳しく解説します。
また、酸素療法のリスクやデメリットについてもお話します。
是非最後までご覧下さい。
- 酸素療法の効果とリスク
- 在宅酸素療法のメリットとデメリット
酸素療法の効果
酸素療法は”空気よりも高濃度の酸素を人為的に吸入する治療法”です。
犬や猫における大まかな酸素療法の適応と効果は以下の通りです。
- 呼吸が苦しいとき(呼吸困難)に酸素欠乏を改善させ、呼吸を楽にする
- 麻酔薬によって呼吸機能が低下しているときに、呼吸を補助する
余談ですが、ヒトの医療での酸素療法の適応症は①呼吸不全、②低酸素血症が疑われる状態、③心筋梗塞などの循環不全、④大きな外傷、⑤敗血症が挙げられます。
高濃度の酸素を吸入することで、酸素を上手く取り込めなくて血液中の酸素が不足して呼吸が苦しい酸欠状態(低酸素血症といいます)を改善させることができます。
例えば、中年齢以降の犬で多い僧帽弁閉鎖不全症や猫の心筋症は、肺水腫で急に呼吸困難を起こすことが多いのですが、どの治療よりもまず酸素療法を行います。
この酸素療法によって、まず呼吸困難のによる低酸素血症から安定を図ることができるからです。
この方法は動物病院においても、もちろんそうですし、お家でいるときにも推奨されます。
因みに、赤血球が減ってしまっている貧血のときには、酸素療法を行ったとしても、体の低酸素状態の大きな改善はありません。
貧血しているときに必要な治療は輸血です。
在宅酸素療法のメリット
在宅酸素療法は、自宅で酸素室を設置して酸素吸入を受ける治療法です。
在宅酸素療法のメリットは3つあります。
- 長期の入院治療による犬や猫のストレスを解放することができる
- 入院治療よりも治療費が低コスト
- 自宅で応急処置ができる
メリット①病院での長期入院のストレスから解放できる
呼吸困難になった場合には、救急で入院して酸素室での集中治療が必要となります。
しかし、中には容態がある程度安定してくると、入院治療は適切ではないワンちゃんネコちゃんもいます。
具体的な例は以下の通りです。
- ストレスで食事を食べない
- 興奮して安静にすることが出来ず、点滴治療が出来なかったり、呼吸が不安定になる、疲弊するなど
かと言って、呼吸困難を起こしていた動物たちをすぐに退院させて様子をみるには不安があります。
このような状況なら在宅酸素療法が推奨されます。
自宅で動物たちのストレスなくしながら治療を続け、動物病院に通院や相談することが出来ます。
ストレスなく過ごせるのは動物たちにとってとても良いですね!
メリット②入院治療より低コスト
入院治療には費用がかかります。
入院費に加えて、酸素室の使用料、投薬治療費、検査費がかかります。
救急時には必要な費用になります。
しかし、ある程度容態が安定してきた場合には、長期入院よりも自宅での治療の方が費用が抑えられます。
特に、呼吸困難による入退院を繰り返してしまう様な場合には考慮した方が良いでしょう
メリット③自宅で応急処置ができる
もし、自宅で呼吸が苦しくなった時には、自宅に酸素室があれば応急処置ができます。
呼吸が荒くなったり、チアノーゼ(舌が紫色になる)が出ている場合には酸素室に入れることで自宅で酸素療法を行うことができます。
病院で入院して治療を受け、無事退院してからも呼吸状態が不安定な場合もあり、症状がぶり返してしまうことが少なくありません。
ですので、自宅に酸素室を設置することで、留守番などで目を離す際に苦しくならないようにすることが出来たり、急に苦しくなった時に慌てずすぐに対処できたりします。
退院してからも、油断のできない病気なので自宅に備えがあると安心ですね。
酸素療法のリスクとデメリット
酸素療法のリスクとデメリットは3つあります。
- 酸素療法は、呼吸困難を起こしている原因を治療しているわけではなく、あくまで対症療法であること
- 重度の呼吸困難の患者(Ⅱ型呼吸不全のどうぶつ)に非常に高い濃度の酸素を吸入すると、呼吸が抑制され呼吸停止になる可能性がある
- 酸素療法を行うためには、設備が必要であること
デメリット①酸素療法は対症療法である
酸素療法は、高い濃度の酸素を吸入することで肺から血液に取り入れる酸素量を増やす治療です。
あくまで救急時の酸素療法は体の酸欠状態を一時的に改善させている対症療法なので、原因となっている病気に対する治療が積極的に必要です。
酸素療法で呼吸を楽にしながら獣医さんと連携を取り、一緒に対処法を考えましょう。
ただし、例外的に肺高血圧症においては酸素療法が原因に対する治療の一つとして非常に有効です。
酸素を吸入することで肺の血管が拡張し、肺高血圧症を緩和させることができます。
デメリット②高濃度の酸素療法は逆効果になることも?!(CO2ナルコーシス)
特に注意が必要なのは、Ⅱ型呼吸不全の患者さん(重度の心源性肺水腫や肺炎、胸水などによって呼吸による体の換気がうまくできない犬や猫)です。
呼吸が苦しく低酸素状態なので酸素療法が必要なのに、逆に呼吸を止めてしまうリスクを孕んでいるというジレンマがあります。
重度の呼吸困難の際には、安易に高濃度の酸素を吸入させることは危険です。
デメリット③設備の準備が必要
また、自宅で酸素療法を行うためには、酸素濃縮器などの高濃度の酸素を供給できる設備が必要です。
準備には自宅のスペースを確保し、手配するための手間と時間がかかります。
電話1本で最短でその日のうちに酸素室を設置してくれる場合もあります。
まとめ
酸素療法のメリットとデメリットについて解説しました。
それではおさらいです。
メリット
- 酸素療法は主に呼吸困難の犬や猫において行われ、すぐに呼吸を楽にすることができる
- 在宅酸素療法は長期入院によるストレスをなくしたり、入院治療費を減らすことできる
- 在宅酸素療法は自宅で急に呼吸が苦しくなった時に応急処置を行うことが出来る
デメリット
- 酸素療法はあくまで対症療法の一つであること
- 高濃度の酸素吸入は重度の呼吸困難時にはかえって呼吸停止を招くリスクがある
- 在宅酸素療法は設置するためにスペースや機材などの準備が必要
酸素療法は呼吸困難に対する重要な治療法です。
どの治療法よりも迅速にどうぶつ達の呼吸が楽にすることが出来ます。
特に在宅酸素療法は飼い主様と病気のワンちゃんネコちゃんを繋ぐために非常に有用な方法です。
時に注意するべき点もありますが、心臓病や呼吸器の病気を患っている子たちには積極的に在宅酸素療法を導入していくと良いと思います。
最後にこの記事が少しでも飼い主様の疑問に解決し、どうぶつ達の健康に繋がれば幸いです。