【血液検査】犬の肝臓の数値 ALTとAST上昇の原因

当ページのリンクには広告が含まれる場合があります。
アイキャッチ 犬のALTとAST

動物病院で血液検査を受けた際に先生から

先生

肝臓に負担がかかっていますね

といわれたことはありませんか?

飼い主さま

肝臓に負担がかかっているって言われたけど、元気だけどなあ……?

飼い主さま

肝臓に負担がかかるって、食事が悪かったのかしら…?

こんな疑問が出てくると思います。

この記事では血液検査の肝臓に関する数値であるALT(GPTともいう)とAST(GOTともいう)について解説します。

目次

ALT、ASTとは

肝臓がダメージを受けた時にALTとASTが飛び出す
ALTとAST 肝臓がダメージを受けた時にALTとASTが飛び出す

ALT、ASTとは、肝臓の細胞質内に多く含まれる酵素のことで、アミノ酸の代謝に関わる働きをしています。

ALTとASTは、肝細胞が何らかの原因でダメージを受けて壊れた時に血液中に漏れ出る「逸脱酵素」です。血液検査では肝細胞の受けたダメージにより血液中に漏れ出たこの酵素の量を測定しています。肝臓が受けたダメージが大きく、より多くの細胞が壊れた際にALTとASTの値は高くなります。

そして、ここで注意が必要なことが2点あります。

1つ目はALTとASTは肝臓の機能(肝臓が働く能力)を示す値ではないということです。よく誤解されます。肝臓病の末期の肝硬変や肝不全に陥っているわけではありません。

2つ目は、ALTとASTが高くなっているだけではダメージをの多さはわかっても、原因が分かるわけではないということです。肝臓は様々な原因でダメージを受けます。原因を突き止めるには、他の検査や今の生活環境の見直しが必要になります。

  • ALTとASTは逸脱酵素であり、肝臓のダメージの多さを反映する
  • ALTとASTは肝臓の機能の指標ではない
  • 肝臓にダメージを与えている原因が分かるわけではない

ALTとASTの違い

ALTは肝臓にのみ、ASTは肝臓、筋肉、赤血球に存在する
ALTとASTの違い

ALTは、そのほとんどが肝細胞内に含まれるため肝細胞障害の指標として使われます。つまり、ALTの値が高いほど、肝臓は多くのダメージを受けていることになります。

ASTは肝細胞内だけではなく、筋肉(体の筋肉である骨格筋と心臓の筋肉である心筋)や赤血球にも存在します。そのため、肝細胞障害だけでなく骨格筋や心筋の障害、赤血球が壊れる病気である溶血性疾患でも異常値が現れます。つまり、ASTの値が高い場合、肝臓、筋肉、赤血球の3つの部位のどこかで多くのダメージを受けていることになります。

ALTは肝細胞の細胞質内に、ASTはミトコンドリア内に存在する
ALTは肝細胞の細胞質内に、ASTはミトコンドリア内に存在する

ALTは肝細胞の細胞質内に存在するため肝細胞がダメージを受けた際に容易に上昇します。それに対して、ASTは肝細胞内のさらにミトコンドリア内に多く存在するため、軽度のダメージではあまり上昇しにくいと考えられています。

つまり、肝臓にダメージが及んだ際には、犬の場合はASTのみが上昇するということはほとんどありません。ALTのみが高くなるか、ALTとASTの両方が高くなります。

ALTの上昇がなく、ASTのみが高い場合は、肝臓以外の筋肉や赤血球でのダメージがある可能性が考えられます。

  • ALTは肝臓のダメージの多さを表す
  • ASTは肝臓だけではなく、筋肉、赤血球の3つの部位のダメージの多さを表す
  • 肝臓にダメージが及ぶとALTのみが高い場合とあるいはALTとASTの両方が高くなる場合がある
  • ASTのみが高い場合は、筋肉や赤血球でのダメージがある可能性がある

ALTおよびASTが上昇する原因

犬のALTとASTが上昇する原因について分類
犬のALTとASTが上昇する原因についての分類

肝臓がダメージを受けてALTとASTが高くなる原因は様々ですが、ここではわかりやすいように3つに分類します。

  1. 外的な原因
  2. 体の中の病的な原因
  3. 肝臓自体の病的な原因

外的な原因

ALTとASTが上昇する外的な原因
  • 食餌性:質の悪いフード、フードが傷んでいる、ジャーキーなどのおやつ、脂質や糖質の多いもの
  • 薬剤性:ステロイド(プレドニゾロンなど)、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、抗真菌薬(イトラコナゾール、ケトコナゾールなど)、抗がん剤(シクロフォスファミド、ロムスチンなど)、抗てんかん薬(フェノバルビタール)など
  • 中毒:洗剤、殺虫剤、植物、農薬、重金属
  • 感染症:犬アデノウイルス1型による犬伝染性肝炎、レプトスピラ菌によるレプトスピラ病、そのほか寄生虫、真菌感染症
  • 外傷

口から摂取することで肝臓にダメージを及ぼす原因多いです。肝臓は腸から吸収された栄養素や薬物・毒物を代謝するため負荷がかかったり、ダメージを及ぼすことになります。

特に、健康で元気な若い成犬で健康診断で引っかかるのは食餌性が一般的です。

また、感染症は口から入ることで経口感染し、ウイルスや細菌、寄生虫などの感性性微生物は肝炎に関与します。

一過性の原因も多いのですが、場合によっては急性に病状が重症になるため注意が必要です。

肝臓以外の体の病的な原因

ALTとASTが上昇する肝臓以外の体の病的な原因
  • 炎症性:歯周病、重度皮膚炎、慢性関節炎、膵炎、炎症性腸疾患、創傷、腫瘍、敗血症
  • 内分泌性:副腎皮質機能亢進症、糖尿病
  • 血栓症:門脈血栓症
  • 低酸素症

炎症に伴って細胞間の伝達を行う分泌物質であるサイトカイン、細菌、ステロイドホルモンなどの影響を受けて肝臓に負担がかかり、ALTが上昇します。

特に歯周病は中年齢以降のワンちゃんで一般的な原因です。

原因は肝臓以外の病気によるものであるので、原因療法としてその病気が起こっているところに対する精密検査治療が必要です

肝臓自体の病的な原因

ALTとASTが上昇する肝臓自体の病的な原因
  • 肝胆道系疾患(胆泥症、胆石症、胆管肝炎、胆嚢粘液嚢腫)
  • 慢性肝炎(コッカースパニエルなど)
  • 銅蓄積性肝炎(ベトリントン・テリア、ドーベルマン・ピンシャー、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ダルメシアン、ラブラドール・レトリバーなど)
  • 原発性門脈低形成
  • 門脈体循環シャント
  • 胆管腫瘍(胆管癌など)
  • 肝臓腫瘍(原発性腫瘍:肝細胞癌など)(転移性腫瘍)
  • 肝膿瘍
  • 肝硬変

肝臓で作られた胆汁を溜めておく臓器である胆嚢は肝臓に付着しているので、胆嚢疾患は密接に肝臓のダメージに関わります。

遺伝性の肝炎(慢性肝炎、銅蓄積性肝炎)や門脈の異常(原発性門脈低形成、門脈体循環シャント)は、持続的に肝臓にダメージを及ぼします。

重度の肝炎が続くと、肝臓は線維組織に置き換わる線維化をおこして硬くなってく肝線維症を起こします。最終的に肝臓全体が線維化を起こすと、肝臓病の末期である肝硬変になります。

原因は肝臓にあるため、それぞれの肝臓病に対する精密検査や治療が必要です。

その他

その他の原因
  • アーティファクト(測定における偽の上昇):溶血、高脂血症

検査の測定に影響が出る異常で、誤って数値が高くなることをアーティファクトといいます。

赤血球が壊れる病気がある場合(溶血性貧血など)や、採血した際に赤血球が壊れると溶血という状態になります。溶血によりALTは誤って高い数値になることがあります。

高脂血症とは、血液中の中性脂肪やコレステロールが高い状態を示します。病的な高脂血症もあれば、食後に一過性に高脂血症になる生理的なものもあります。いずれにせよ、食後の高脂血症の影響をないようにするために、血液検査を受ける際は12時間の空腹が望ましいです。

ASTのみ上昇する原因

ASTのみが高くなる原因は筋肉と赤血球のダメージによる
ASTのみが上昇する原因

ALTの上昇がなく、ASTが顕著に上昇している場合は肝臓以外の原因で数値が高くなっている可能性があります。

筋肉の障害

骨格筋(体を動かす筋肉)や心筋(心臓の筋肉)の障害が挙げられます

筋肉の障害によりASTのみ上昇する原因
  • 外傷(骨折、脱臼など)
  • 筋炎
  • 腫瘍
  • 血栓塞栓症
  • 重度の激しい運動
  • 心筋の障害

溶血性疾患

赤血球が壊れてしまう病気の代表的な病気です。多くは後天的な原因の病気が多いのですが、生まれつきからの先天的な病気もあります。

ASTのみが上昇する溶血性疾患
  • 免疫介在性溶血性貧血
  • ヘモプラズマ症
  • タマネギ中毒
  • ピルビン酸キナーゼ欠損症など

まとめ

血液検査の項目であるALTとASTについて解説しました。

肝臓は重症化するまで症状が出ないことが多いため、「沈黙の臓器」と呼ばれます。軽度な上昇だからと油断しないで、定期的な血液検査をしていきましょう。また、重度な上昇や長期の上昇が見られる場合は、レントゲンや超音波検査などの精密検査を行うことも大切です。

アイキャッチ 犬のALTとAST

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次