SDMAは対称性ジメチルアルギニンの略称で、犬では腎臓の機能の指標として血液検査で測定されています。
SDMAは2016年から日本の動物病院で検査がスタートしました。
最近では多くのワンちゃんが健康診断などで検査を受けています。
SDMAについて詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしていただけたらと思います。
この記事では具体的にSDMA高かった時どうするかという対処方法について解説していきます。
- 犬のSDMAとは何か?
- SDMAの基準値は?
- SDMAが高いとき様子を見てもよいのかどうか?
- 慢性腎臓病に罹っているのか?
SDMAとは
SDMAについて解説します。
SDMAとは対称性ジメチルアルギニンの略称で、アミノ酸の一つであるアルギニンが体の中で変化(メチル化)されることによって作られる代謝産物です。
SDMAの90%以上のほとんどが腎臓で濾過され、尿中に排泄されます。
腎臓の働きが悪くなると、腎臓で濾過しきれずにSDMAが血液中に溜まってしまいます。
そのため、血液中のSDMAを測定することで、腎臓のはたらきが正常かどうかを知ることができます。
因みにヒトでは、SDMAの血中濃度の上昇は心血管性疾患のリスクと関連していることが報告されています。
また、国際腎臓病研究グループ (International Renal Interest Society: IRIS)の慢性腎臓病のIRISステージ分類ガイドラインでも、SDMAを慢性腎臓病の診断やステージングに使うことを勧められています。
ステージ分類とは、腎臓病がどれだけ進行しているかを示しているものになります。慢性腎臓病は進行具合によって出てくる症状の程度や治療法にも影響するため、ステージ分類はとても重要です。
SDMAの参考基準値
検査会社 | 参考基準値 |
富士フィルムVETシステムズ | – |
IDEXX | 0〜14 μg/dl (子犬の場合 0〜16 μg/dl) |
犬ではSDMAを測定できるのはIDEXXだけです。
外注検査で検査をしてくれる動物病院が多いと思います。
病院の中で検査してくれる動物病院もあります。
SDMAの参考基準範囲は品種や年齢の影響を受けることが分かっています。
グレイハウンドはSDMAが約1μg/dlほど数値が高くなります。
グレイハウンドは筋肉量の影響でクレアチニンも高く出る犬種です。グレイハウンドにおいて早期の腎機能の低下を評価する際は注意が必要です。
また、子犬の参考基準範囲は0〜16 μg/dlと少し高めです。
この場合の子犬とは平均的には約1歳未満であり、それ以上では成犬の参考基準範囲となります。
ただし、これは体格の大きさによっても異なり、小型犬では約6ヶ月で成犬の参考基準範囲の適応になりますが、大型犬では2歳までかかることもあります。
SDMAが高かった時のチェックリスト
実際にSDMAが高いと先生から指摘されたときは驚いてしまうこともありますよね
様子を見ても良いのでしょうか?
SDMAが高い場合には、様子を見ても良い(経過観察で問題ない)のか、ちゃんと精密検査や治療を考えた方が良いのかを考える必要があります。
特にSDMAは慢性腎臓病の早期発見のための項目になるので、本当に慢性腎臓病かどうか、慢性腎臓病で治療が必要なのかを慎重に見極めていく必要があります。
ここからIDEXX SDMAの検査のアルゴリズムやIRISの慢性腎臓病のガイドライン(2019年最新版)を参考にした、SDMAが高かった時の対処方法を私見も含めて解説します。
ポイントは2つあります。
- SDMAの数値の高さ
- その他の慢性腎臓病を疑う症状や検査の異常があるか
SDMAの高さ
SDMAの数値の高さは、高いほど腎機能が低下していることを示します。
ここでは大まかに数値の高さは軽度、中程度、重度に分類します。
正常 | 軽度 | 中程度 | 重度 | 非常に重度 | |
SDMAの数値(μg/dl) | 0~14 | 15~17 | 18~36 | 37~54 | 54~ |
例えば、健康診断でSDMAが16μg/dlだった場合は、軽度の上昇となります。腎機能の低下も軽度のであると考えられます。
しかし、数値が中程度以上の場合は要注意です。
その他の慢性腎臓病を疑う症状や検査の異常があるか
慢性腎臓病を疑う症状や検査の異常とは以下の通りです
特にワンちゃんの飼い主様は、お家で症状が見られるかを注意して見ていただくとよいでしょう。それ以外の以下の検査の項目は基本的には動物病院で獣医さんが確認する項目になります。
慢性腎臓病を疑う症状や検査の異常が一つでもある場合は要注意です。
精密検査と治療が必要かを判断してもらう
①SDMAの高さと②上記の表を組み合わせると慢性腎臓病の診断と進行具合、すなわちステージがどの段階にあるのかを考えることができます。
言い換えると、「慢性腎臓病に①かかってなさそうか、②かかっていいそうか、③すでになっているのか」が推測できます。
病気の進行具合によって、経過観察で良いのか、精密検査を受けた方が良いのか、治療を開始した方が良いのかということが獣医さんから判断されます。
SDMAが高かった時のフローチャート
以下に主に慢性腎臓病を想定したときのSDMAが高かった際の対処を示します。
注)実際のワンちゃんの状態によって血液検査の結果の解釈は様々です。参考としていただき、獣医さんと相談していただけたらと思います。
注)前述している通り、SDMAは慢性腎臓病以外の病気でも高くなります。特に急性に非常に高値の数値になる際は、急性腎障害や尿路閉塞などの救急疾患が含まれますので解釈には非常に注意が必要です。
SDMA 15〜17μg/dl + 症状はない
SDMAの数値が15〜17μg/dlの軽度に高くなっていて、症状がない場合は以下が疑われます。
SDMAが少し高いが、症状が見られない場合に考えられる病気
- 腎臓病に罹患していない
- 慢性腎臓病の初期であるステージ1
おすすめする対処方法は2通りあります。
⓵まずは病院で尿検査を受けましょう。
尿検査に異常がなければ少し様子を見ても構いません。
②すぐに尿検査を受けられない場合は、自宅で朝一番のおしっこを確認しましょう。
なぜなら朝一番のオシッコは、夜寝ている間に水を飲まないため一番濃いオシッコをします。
おしっこの濃さによって腎臓の機能を推測することができます。
濃い黄色のオシッコをしている場合は問題がない可能性が高いです。
検査で認められたSDMAの軽度の高値は、様々要因が関係するため一概には言えませんが、問題のない軽度の脱水症状などが要因として考えられます。
2週間から1ヶ月以内にでSDMAの再検査をおすすめします。
合わせてBUNとクレアチニン、リンなどの項目を含めた血液検査と尿検査、超音波検査などの検査も行うとより正確な評価ができます。
中年齢以降のワンちゃんなら甲状腺機能低下症の可能性もあるため、甲状腺ホルモンも測定してもらいましょう。
さらに、再検査でもSDMA含めて異常がなければ、定期検診で問題ありません。6ヶ月前後を目安に再検査を受けましょう。
尿検査やオシッコの様子に異常がある際は以下の【4-2】になります。
SDMA 15〜17μg/dl + 症状がある
SDMAが少し高く、症状がある場合に考えられる病気
- 慢性腎臓病の初期であるステージ1
- 慢性腎臓病に罹患していないが、症状に関わる他の疾患にかかっている
- 慢性腎臓病のステージ1と症状に関わる他の疾患もかかっている
対処方法は、病気に関連した症状もあるため、病院で検査を受けることをおすすめします。
IRISの慢性腎臓病のステージ分類のステージ1に該当する可能性があります。
2週間以内を目安にBUNとクレアチニン、リンなどの項目を含めた血液検査と尿検査、血圧測定、超音波検査などの検査を受け、慢性腎臓病の早期発見に努めましょう。
必要に応じた適切な治療を受けて、定期的な検査でモニタリングをおすすめします。
なぜなら、SDMAが軽度に高くなる程度の慢性腎臓病であれば強い症状を起こす可能性が低いためです。
言い換えると、食欲不振や瘦せるなどの強い症状を起こしている原因は他にある可能性が高いということです。
この場合、他の病気を確認のため精密検査を受けましょう。
SDMA 18μg/dl以上
数値が18μg/dl以上の場合、以下が疑われます。
SDMAが高い場合に考えられる病気
- 慢性腎臓病の中期であるステージ2
- 慢性腎臓病のステージ2と症状に関わる他の疾患もかかっている
特に慢性腎臓病の中期(ステージ2)に該当する可能性があります。
お水を飲む量が増えたり、オシッコの量が増えたりする(多飲多尿)などの症状が顕著に見られる頃です。
すぐにBUNとクレアチニン、リンなどの項目を含めた血液検査、尿検査、血圧測定、超音波検査を受け、慢性腎臓病の早期発見・治療に努めましょう。
甲状腺機能低下症も疑われる際は甲状腺ホルモン測定も受けましょう。
必要に応じた適切な治療を受けて、定期的な検査でモニタリングをおすすめします。
7-2と同様に食欲不振や瘦せるなどの強い症状を起こしている原因は他にある可能性が高いです。
他の病気を確認のため精密検査を受けましょう。
SDMA 36μg/dl以上
慢性腎臓病に罹っている可能性が高いです。他に以下が疑われます。
SDMAがかなり高い場合に考えられる病気
- 慢性腎臓病の後期から末期(ステージ3〜4)
- 慢性腎臓病のステージ3~4と症状に関わる他の疾患もかかっている
- 急性腎障害
- 尿路閉塞 など
慢性腎臓病の場合、後期から末期(ステージ3〜4)に該当します。
多飲多尿の他に、脱水症状、尿毒症と呼ばれる中毒症状が見られます。
これは尿中に排泄されるはずの毒素が腎機能の低下によって蓄積してしまうために起こり、嘔吐や悪心、食欲不振に陥り、体重が減って痩せるなどの症状が見られます。
すぐにBUNとクレアチニン、リンなどの項目を含めた血液検査、尿検査、血圧測定、超音波検査を受け、腎臓病の診断と治療をおすすめします。
甲状腺機能低下症も疑われる際は甲状腺ホルモン測定も受けましょう。
適切な治療を受けて、定期的な検査でモニタリングをおすすめします。
特に慢性腎臓病のモニタリングの際はSDMAを含めて検査をおすすめします。
慢性腎臓病が進行すると痩せてきてしまい、体重や筋肉量が減ってしまうためクレアチニンでの慢性腎臓病の評価が低くなってしまう可能性があるためです。
- SDMAが高かったら、数字の高さと症状や検査の異常を照らし合わせて評価する
- SDMAが15~17μg/dlだったら、まずは尿検査を受けるか、少なくとも尿の濃さをみる
→問題ないなら少し様子見ても良い - SDMAが15~17μg/dlで症状があるなら検査を受け、慢性腎臓病の早期発見に努める
- SDMAが18μg/dl以上なら、慢性腎臓病の早期発見・治療に努める
- SDMA 36μg/dl以上なら、慢性腎臓病の治療に努める
まとめ
SDMAが高かった時どうするかについて解説しました。
それではおさらいです。
- SDMAが高かったら、数字の高さと症状や検査の異常を照らし合わせて評価する
- SDMAが15~17μg/dlだったら、まずは尿検査を受けるか、少なくとも尿の濃さをみる
→問題ないなら少し様子見ても良い - SDMAが15~17μg/dlで症状があるなら検査を受け、慢性腎臓病の早期発見に努める
- SDMAが18μg/dl以上なら、慢性腎臓病の早期発見・治療に努める
- SDMA 36μg/dl以上なら、慢性腎臓病の治療に努める
血液検査での異常とその原因は様々です。そして、原因は一つではなく、重なって存在することも少なくありません。腎臓病においてもそれは同じです。
また、病気によって同じ検査結果でも解釈が異なり、その子その子によって治療の方向性も異なります。
特に難しい病気の場合、獣医さんの説明をよく聞いて、ご家族のワンちゃんに合った治療の方法を相談して決めていくのがよいでしょう。
もし、少しでも分からないことがありましたら、かかりつけの獣医さんに気軽に質問しましょう。
犬の腎臓病に関しては以下の記事も参考になると思います。
最後に今回の記事が少しでも飼い主様の疑問に解決し、どうぶつ達の健康に繋がれば幸いです。